毎日の通勤の足として僕は、JR京浜東北線を使っているのだが、
会社から帰る車内で、こんな事があった。
程々に混み合った車内で、しゃがれ声のおやじがいきなり怒鳴り出した。
「お前!起きろこの野郎!」一斉に振り返る人々。
「酔っ払ってんのか、お前!こんなに混んでんのに二人分も席、占領しやがって!」
どうやら酔っ払って座席に横になっているサラリーマンに怒っているらしい。
見た所、怒鳴っているおやじは、スーツを着た白髪混じりの会社員。
座席に横になっているのは、若いサラリーマンだ。飲み会か何かで
酔っ払って眠ってしまったらしい。おやじは何とか若いサラリーマンを起こそうと
何度も怒鳴ったり、背中を叩いたり、揺さぶったりしている。
最初は、緊張気味だった車内もその様子を見て、ほのぼのとした雰囲気に
なってきた。「あーゆーおやじも最近いなくなったねぇ。」とか
「昔は・・・」とか、周りから聞こえてくる。
ようやく起こされた若いサラリーマンも半分寝ている状態でおやじの言葉を
素直に聞いて、こくんこくん、とうなずいている。
「お前、酔っ払ったからつって、こんなに混んでる電車ん中で寝ちゃ駄目じゃないか。」
「まだ若いんだから、シャキっとしろ、シャキっと!」
「今日は、飲んできたのか?だから酔っ払って寝ちまったのか。そうかそうか。でもな~
、シートに横になって寝ちまったらいけねーよ、若いの。みんなが迷惑する。」
おやじはなぜか嬉しそうだ。
おやじの周りの人も笑いながらその様子を見ている。
サラリーマンが起きて空いた、一人分の席に座るように隣に立っていた女性が
おやじに勧めていたが、「いや、私はすぐ降りるんで。」と遠慮している。
電車が次の駅に停車すると、おやじは「しっかりしろ、若いの。」と
若いサラリーマンに声をかけて降りていった。
見て見ぬふりをする。極力、他人とは関わりにならないで生きていく。
そんな風潮が浸透してきていると感じていた僕にとって、今日の夜の
出来事は戒めでもあり、反省でもあり、そしてなぜか心地よかった。