ものっそ叫び隊である。
たんこさん個人で言えば、もうそろそろ持ち曲300曲に到達する勢い(弊社調べ)だが、今まで20年近く彼の音楽を聴いてきた私が感じるのは、この作品が文句なしに今までの作品の中でベストな一枚だという事。
これまでの作品を聴いてきた人にとっても、間違いなくこれまでの作品よりも総合的な楽曲のレベルが上がっていると頷ける出来だろう。
当然だが、それは決して彼一人の力ではなく、ドラム(坂本氏)、ベース(久保氏)両氏の音楽的・技術的貢献が大きな原動力となっている。
技術的な側面から見ても、それぞれ一聴するだけで相当高度なレベルだと感じさせる作品である。
専門外なので、正確な事は言えないのだがベースはフレーズ、リズム、キメが細かい部分に至るまでよく練られていて、各曲のベースラインだけを追いかけていても十分に聴きごたえがあるものとなっている。
そのせいか、あくまでも個人的にではあるが「この部分、もう少しベースをフューチャーしてもいいのにな。」という贅沢な不満が所々に存在してしまった。
ドラムについてもその安定したリズム、緩急自在のテクニックは勿論、楽曲の個性や展開を存分に引き立たせる事に成功している。
また前作までと聴き比べてドラムの音についてはかなりの改善が実感できるものとなっており、録音環境の充実や機材、ノウハウへの投資度合いが体感できるものとなっている。
このアルバムについて、ありきたりな言い方を用いればまさに「聴けば聴くほど味の出るアルバム」である。
聴けば聴くほど新たな発見や味わいがあり、鳥肌の立つ回数も増えているのが現在の私である。
総評として言えるのは、曲自体の良さは当然として、そのアレンジ力が圧倒的だ。これは数多のライブ、そして何より「ものっそ叫び隊」の各メンバーとの音楽的な切磋琢磨と意見の激突が蓄積、集約された結果であろう。
極太のロックもありながらポップでもあり、メンバーとものっそ叫び隊を取り巻く人達の人生や何気ない日常への切なさや希望、そしてポジティブな青春賛歌を歌い上げている。
何より本作ではアコースティックメインのスローテンポなバラード曲の色合いが薄まった印象で、ロック色の強い作風となっている。そしてそれが、ものっそ叫び隊が現時点で目指している方向性を表していると言ってもいいだろう。
このアルバムの歌詞を通して感じるのは、たんこさんが今までの人生において少しづつ培ってきた、熟成させてきたその経験と「青春観」とでも言うべきあっけらかんとした主張であり、「皮肉に笑いながら、時に真剣に取り組みながら人生を可能な限り楽しんでやるぜ!だから一緒に行こうぜ!」という熱く軽快なメッセージだ。
多分これは今までのアルバムでも共通して感じてきた印象、メッセージであるが、それをこのアルバムでも再認識させてくれる。
私は稚拙ながら何曲かのギターパートで参加させてもらい、その報酬に数十枚の完成したCDと高額なエフェクターを頂いた。
既にリリースから数ヶ月が経とうとしている今、いまだ仕事中にハードリピートしている私が今更ながら各楽曲について思いつくままに感想などを書いてみたいと思う。
これは、たんこさんに依頼されたわけでもなく、単純な私の「このアルバムについて感じた事を書き残しておきたい。」という欲求に基づくものであり、リスナーとして感じた事を書いただけで、ものっそ叫び隊メンバーその他関係者に忖度するものではない事(要するに辛口な意見やトンチンカンな個人的感想・想像、意味付けもある)をお断りしておく。
全般的に「お前、何様だよ。」という批判を前提に書いているが、どうか生暖かい心でもってご了承頂きたい。
それでは行こう。
1.「自慢したい」
現時点でこのアルバム一番のお気に入りである。多分、全世界で1,2を争う勢いの回数を聴いているだろう。思わず風呂場で湯船に浸かりながら、通勤中の電車の中で外の景色を見ながら、バイクで夜の246を走りながらフレーズを呟いているくらいだ。それくらい味わい深い歌詞を搭載した曲である。
ちなみにこの曲を口ずさむ時は「自慢しない」という感じに否定形で歌うようにすると自虐風な替え歌に様変わりして一曲で2度楽しめるのでオススメである。
この曲は、「自慢したい」というフレーズに紐付いた「○○したい」という特定のフレーズを連呼する、たんこさんの作る曲に比較的多く見られるパターンだが、この曲でそのイディオムが完成の域に到達したと思われる。それほどに完成度が高い。
アレンジ、曲の展開も素晴らしい。そしてなにより感じるのは自分の事を「自慢したい」という、ともすればネガティブに捉えられがちな人間の欲求やエゴを明るく、そして皮肉交じりに訴えかける歌詞である。
これだけ「自慢したい」というテーマについて、人間欲求の存在を掘り下げた歌詞の文学的貢献に賛辞を贈りたい。まさに金字塔である。
この曲のハイライトはやはりブレイク後の「機織るとこ~」から始まる部分だろう。ここで全身に鳥肌が立ち、「ただただあなたに認めてほしくて。」で、この曲でたんこさんが伝えたかった本意がガツン!と心に入って来て、人がなぜ「自慢したくなる」のか、その意味を知るのだ。
正直この部分で私は毎回仕事の手が止まり涙が出てしまう。アレンジ的にここで重厚なストリングスが入ったら涙腺は崩壊していた事だろう。危なかった。
「自慢したい」という人間のエゴとも言える行動の理由をここの部分でリスナーが知ることによって、それまでの「自慢したい」という内容が、違う印象となって響いてくる。
それまでは自己満足的に不特定多数の人達に向かっていた「自慢したい」という欲求が実は「自分にとっての大切な人」へ向けられたものだったのだと気づくのだ。
その大切な人が恋人なのか伴侶なのか子供なのかはそれぞれだろう。ただ、その顔を思い浮かべながら聴くとたまらずグッと来てしまう。
以上の理由から歌詞の構成についても極めて入念に練られたと思われる楽曲だ。この一曲を聴いただけで本作は作詞の面においてもこれまでの限界を突破したという印象を持った。
ただ、この曲はこういった文学的な味わいだけでは勿論無く、たんこさんお約束の遊び心も存在している所がニクい。
エンディングのゲストによる合いの手には、涙した私の感情をリセットさせ、次に始まる曲をフラットな気分で聴けるようにするという効果がある。
そして、「自慢したい」という欲求は何も自分だけじゃなく、君の中にも存在してるんだぜ、というメッセージも含有されているような気にさせる。
何はともあれ、この曲は齢四十五となった私の心に残る名曲である。
2.「根幹ストライカー」
歌詞の内容は意味深だが、素人には分からない感じだ。勿論私は素人である。
テンポが途中から変わるので、エディットが面倒だったのかなぁとか合わせるの大変だったんじゃないかな、なんて想像した。きっとそれは事実だと思う。
でもって、ここでもたんこさんのアルバムでこれまでにも散々活用されてきた「ボーカルのフレーズをLR交互に振りながら聴かせる」手法が見られる。
思わず「あー、これこれ。」と思わせる。
この曲のギターソロはアルバム中でもベストではないかと個人的には思っております。
3.「20年間生活」
一聴して、たんこさんがライブをこれでもかと繰り返してきた経験が生きてるなぁという感想だ。
Aメロでじっくり火薬を詰めてから爆発させるという手法は、ライブで盛り上がるための経験則、そこからの絶妙なアレンジという感じがする。
そして、この曲の印象を決定づけているのは、このAメロの微妙で絶妙なコード進行から醸し出される空気感と接続部分でR側に聞こえるギターではないかと。
こういう様々な小技が本作品を通して繰り出されるのだが、単純に「腕を上げてるよなぁ」と思わずにはいられない。
前作から8年間の時間は決して無駄ではなかったのだなと納得させるだけの出来である。
4.「突然アンカー」
たんこさん得意の競馬ネタだろうか。
比較的シンプルな構成で、ギターのリフ、ソロが良い味を出している。
5.「ドラゴンケン氏」
たんこさん得意の友人知人ネタ曲の最新版。
「自慢したい」と同じく、ここでは「○○ぜ」という語尾で一貫した歌詞となっている。
同じような調子の歌詞が続くのだが、全く飽きさせる事がなく、巧みな構成とアレンジが歌詞のシンプルさを補ってインパクトのあるものとしている。
ベースラインが秀逸である。
6.「88ブギ」
アルバムのカラーはロック色が強いものとなっているが、少し趣が変わり曲名にあるようなBoogie、Jazz色も香る曲である。
「ものっそ叫び隊」の振り幅の大きさを如実に表していると言っていいだろう。
ここでもリズム隊の演奏技術の高さが伺えるので、必聴である。
7.「オンザロックがお好きでしょ」
この曲はマジで唸った。完成度が凄い。
他の曲と比較しても相当に細かい所まで神経を尖らせて作られていると思わせる。
曲中で前触れ無く流される店長らしき人との会話の模様は、遠くはなれても相変わらず変わらないたんこさんの人柄を伝えるのに十分な役割を担っている。
店内の雰囲気や、たんこさんの表情も目に浮かぶようである。
娘さんのものと思われる声が曲中僅かに差し込まれているが、これがこの曲を一気に引き締めている。
この掛け声風の「セイ!」という一言をこの部分に挿入するセンスは脱帽と言うしかない。
Aメロとサビでの曲調に合わせた声質の使い分け、エンディングの各パートが入り乱れた感じが職人技と言うべきレベルで融合されている。
これは長年一緒にやってきたバンドメンバーとの完璧に調和した技術力の賜物であろう。
レコーディング・編集にも相当な時間を要したのではないかと容易に想像できる至極の一曲である。
8.「白銀を滑る赤」
今までたんこさんが作ってきたPOPな曲調を引き継いだ正統派な曲。
とても聴きやすく、それでいて危機的状況における哀愁がそこはかとなく感じられる一曲だ。
本楽曲では様々なドラムパターンが繰り出され、突然の豪雪で困惑する様子と、そこから脱出すべく決心を固める様子がドラムパターンの変化によって見事に誘導され表現されている。
私はソロギターのパートを弾かせてもらったが、たんこさんの編集がいかに凄まじいレベルなのかをまざまざと見せつけられた。
何パターンかのフレーズを録ってデータを送り、そこからはたんこさんにお任せしたのだが、正直もうちょっと時間かけて弾くべきだったかなと多少の後悔が残る。
まぁこれが実力なので仕方ないのだが。
正直、このソロをもう一度弾けと言われても「無理。」と返す他ない。というか弾いてない。
9.「ドンマイ・レディオ」
アルバム中盤を飾る、小気味よく明るい曲調。とても聴きやすく耳に残るフレーズ。
ポジティブな歌詞とメロディが個人的に好きで、この曲もよく口ずさんでいる。
最後のサビのフレーズがお気に入りで、仕事中にも関わらず無意識に「ドンマイレディオー♪」と合いの手を入れてしまう。
10.「ホッピーラヴ」
ホッピーへの溢れる愛が感じられる一曲だ。
この曲が秀逸だと思うのは、単なる「ホッピーが好き」という個人的趣向を並べただけではなく、その愉しみ方、特徴を指南するかのような歌詞の内容である。
シンプルなアレンジだが、耳に残るフレーズ。
「ホッピーラヴ」の連呼は、ホッピーに対する愛情を感じさせる。
思わずThe Beatlesの「With a Little Help from My Friends」を連想してしまうのは私だけではないだろう。
クルマでも聴いているので、無意識に子供たちも口ずさむ印象的なフレーズである。
個人的には、ホッピーを飲んでいる時ではなく、居酒屋でホッピーを飲んだ帰り、夜風に当たりながら家路を歩く時にふと星空を見上げて思い出す優しい曲である。
11.「電気のROCK」
ミドルテンポで続いた落ち着いた雰囲気を断ち切るように、ここからアップテンポの曲達が幕を開ける。
まるでレコードのA面からB面へ裏返したような雰囲気の転換を想起させる。
ディストーションの効いたベースと破壊的なギターが印象的だ。
12.「ラード・ミー」
前曲から引き続き間髪入れずに突入する手法が見られる。
スピード感が増してアルバム全体を通した時に、中盤の盛り上がりを演出するのに成功している。
「電気のROCK」と同じくAメロでボーカルにエフェクトをかかっているが、破壊的なスピード感の創出に成功している手法だ。
13.「ど~だ?シャッフル!」
「白銀を滑る赤」に続き、この曲でもギターで参加させて頂いた。
たんこさんからのオーダーは「BOOWYのギターみたいな感じ」というものだったが、全くの門外漢なためYouTubeで小一時間聴きまくった。
迷いながらオケに合わせてつらつらと弾いたフレーズをまとめて渡したが、それらが曲を通して流れる事となった。
これも、聴く度に私のギターが歌を邪魔しているのではないかと猛省する一曲である。
14.「インディ・ツアー」
この曲もサビが印象に残る。気づくと口ずさんでいる一曲だ。
タイトルの「インディ・ツアー」がどういう意味を示しているのかは分からないが、きっとホームである四国を抜け出して海を渡りライブを行った事を歌ったものであろう。
ライブを多くこなすアーティストのほとんどがそうであるように、ライブツアーの終わりには熱狂と共に、ある種の淋しさがメンバーの中にも広がるのであろう。
こうした、自身のツアーについて振り返る楽曲というのは、今までにも沢山のアーティストが作ってきた。
Mr.childrenの「1999年 夏 沖縄」などが良い例である。
この曲も、そうしたライブの興奮が過ぎ去った後に残る寂しさと次なるツアーへの期待・希望がしみじみと感じられる秀曲である。
15.「お世話になりやした」
「7.オンザロックがお好きでしょ」と並んで、この曲も鳥肌立ちまくりな一曲。
何より曲の構成に拘りまくっているという印象。ものっそ叫び隊が次の境地に向かって道を切り拓き初めたんだなと思わせる。
そしてサビの破壊力がアルバムを通して1,2を争うレベルだ。まさに根幹にガツンとクル。
ただお怒りを覚悟で書くが、これだけ焦らされたんだから出来ればもっとこのサビを聴きたいと思った。
そしてエンディングもこのサビの迫力のまま終わって欲しかったなぁ。というのが未だに心に消えず残っている正直な感想だ。
この楽曲は何か次のアルバムへの試金石的楽曲という気がしてくる。
ものっそ叫び隊が次作で示す新しいロックの形の原石という気がしてくる、そんな不思議な一曲である。
16.「世界で一番の小さい花」
「7.オンザロックがお好きでしょ」「15.お世話になりやした」に続き、短いながらも本作で本格化した感のある「ロックオペラ」調の壮大な曲だ。
曲後半に向けての目まぐるしい展開が本当によく出来ていて、前曲と同じく次作への期待が高まる一曲だ。
きっと次作ではピアノ、ホーン、ストリングスのセクションが必須となるに違いない。
17.「時計」
可愛い声から始まるこの曲では、私もギターで参加させていただいた。
コーラスの終わりに、たんこさんの「…できた…。」という一言が、絶叫オフィスでの録音風景を想起させて微笑ましい。
1分という短い曲だが、アルバムを通して聴いた時に、良いアクセントとなっている。
18.「タクシー・ゴー」
全般的にギターが良い。特にギター・ソロが素晴らしく、このまま教則としてコピーしたくなる出来である。
ここでも、「もうワンコーラス多くソロが聴きたかった」という渇望感が湧いてくる。
リフも秀逸だが、同じリフでも微妙にピッキングやミュートのニュアンスを変えている所がニクい。
また、ベース&ドラムのリズムセクションにおける円熟のドライブ感が鳥肌モノである。
7曲目の「セイ!」に続き、ここでも娘さんの声と思われる「よし!」という締めの一言が差し込まれている。
実質的にはアルバムの最後を飾る曲だが、後味の良いエンディングだ。
個人的には「お世話になりやした」もしくは「世界で一番の小さい花」辺りで壮大な世界観を創出して華々しくエンディングを迎えても良かったのではと思われる。
ただ、それらの楽曲を抑えてラストに配置されるだけはある、納得の極上ロックナンバーである。
19.「えせドラゴン(DEMO)」
長めのブランクから始まる本楽曲は、ライブ中にたんこさんが機材トラブルなどで中断してしまった時に演奏される曲との事。
ある意味、飛び道具的な意味合いもあるのかも知れない。
20.「さようなら(LIVE)」
いつものたんこさん節が炸裂しているポップでロックな一曲。
と思ったらシャウターズ時代の曲との事。なるほどと頷きました。
このアルバムの最後を飾る曲に、ある意味相応しい感じもする、爽やかな後味を残す一曲だ。
夏の終わりのそよ風が吹く夕焼けの中、仕事からの帰り路に思わず口ずさんでいたのを思い出す。
以上、ものっそ叫び隊による3rdアルバム「サン・サン・サン・ロック」の独断全曲レビューでした。
確かたんこさんは「CD売れたら(財布に)入れてええよ。」と言っていたと(勝手に)認識していますので、もしCDが欲しい方は私まで。
希望小売価格は2000円です。
CDの売上金はその全額を弊社の口座から国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパンを通じて世界の子どもたちのために寄付させて頂きます。
ものっそ叫び隊は今後ライブ活動と共に次なる4thアルバムへと曲作り、レコーディングに入ると思われるが、きっといつかこの「サン・サン・サン・ロック」を凌駕するアルバムを世に放つことだろう。
ただ、ここまでの完成度を誇るアルバムを凌ぐ作品を完成させるのは、大変なプレッシャーと制作能力が問われる試練となる事は想像に難くない。
是非とも、本作で培ったものを活かしつつそれを凌ぐ作品をリリースして欲しい。
そうして次作を心待ちにしながら、今日も私はこのアルバムに収められた極上のフレーズを口ずさむのである。
初冬の二子玉川事務所にて
米蔵